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私はもうすぐコピーロボットに乗っ取られます

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私は怖がりです。テーマパークによくあるお化け屋敷になんて絶対入れないし、ジブリアニメのラピュタでさえ、何度も見ているのに毎回ドキドキして身体が緊張してしまいます。

できれば何事もなく、いつも平穏でほんわかと暮らしたいのです。

それこそジブリ作品で言えば「トトロ」の世界のように。

そのために私は何か事を始める時には準備をしっかりし、できる限りリスクヘッジをしておくことが大好きです。だから、想定外のことが起きてしまったらパニックになってしまうに違いありません。

 

そんな私に、先日コピーロボットがいることが発覚しました。

コピーロボット……知っている方も多いと思いますが、パーマンドラえもんに出てくるロボット。本人の分身となり「身代わり」となるロボットのことです。マンガではこのロボットのスイッチは「鼻」で、鼻を押すとコピーロボットが現れます。私はそもそも自分がコピーロボットを持っていることも知らなかったので、スイッチの押し方ももちろん知りませんでした。ところが、私にこのコピーロボットがいることがどうして発覚したかと言うと、スイッチの押し方がわかってしまったからです。

 

私は最近「講師」をすることになりました。その日は準備万端、リハーサルも念入りに行い、台本だって完璧でした。会場に入ると演台の上に台本やパソコンなどを用意し、あとは講座のスタートを待つのみ。そして講座がスタートしました! リハーサル通りに自己紹介を終え、さて本題に入ろうと演台の上の台本を見た瞬間、私は凍りつきました。台本が違う! 私は間違って違う台本を演台の上に用意してしまったのです。もうそれからが大変! 私はパニックに陥り、あわてふためき「わーすみません」と言って足元に置いてあったカバンの中を床にぶちまけて正しい台本を手に取り、あたふたと演台に戻ります。受講生は苦笑いでその一部始終を眺めていました……だと思っていたのですが、実際には、にこやかな顔をして「それではテキストの○ページをみてください」と講座を進めていたのです。けれどもその胸中はさぞかしパニックだろうと思いきや、むしろ「この状況をいかに楽しむか」ということを考えてニヤッとしていました。

ありえない! この段取り命の私が? あんなに怖がりなのに?

 

また別の日、質疑応答の場で講座の内容とはあまり関係のないことでネガティブな発言を繰り返す受講生に遭遇しました。もちろん私はそんな人がいる想定はしていません。周りの人たちも「講師」がどう対応するのか、注目しています。「あ、えーと、その件に関しましては……そうですね……色々な方がいらっしゃいますから……答えはひとつとは限らないといいますか……」私は想定外の出来事にしどろもどろになり、頭の中が取っ散らかって、もはや半泣き状態……(あーもう逃げ出したい!)……になるかと思いきや、またにこやかな顔をして「そういう考え方もありますよね」と冷静に対応しています。しかも相手のネガティブ発言をすべてポジティブ変換して投げ返す余裕を見せています。その胸中をのぞいてみると「そちらがそう来るなら、こちらも全力で投げ返しますよ!」とやる気さえ感じます。

え? あなたは誰ですか? 

 

どうやら私のコピーロボットは窮地に立たされたと思うとスイッチが入るようなのです。しかもこのロボットはその状況が好きで、その状況に燃えるようなのです。「あのスリルがたまらないよね。私は今試されてるなって思うもの。あのライブ感がいいのよ!」なんて言いだす始末。コピーロボットなのですから、私のコピー、つまり私と同じ平穏を求めるロボットでなくてはいけないはずです。それなのにスリルがたまらないだなんて。ライブ感を楽しむだなんて。もはや、コピーではなくなってきています。そんなこと、許されません。はやくロボットを止めなければ! ここで私は重大なことに気がついてしまいました。ロボットの起動スイッチは発見したけれど、ストップするスイッチがわからないのです。もう、ロボットは起動しているのに! ストップスイッチを探しながら、私は考えました。コピーロボットはそんなに悪者なのだろうか? むしろ私が窮地に立ったところへ助けにやってきてくれたのではないだろうか? そもそも起動スイッチを押したのは窮地に立って困った「私」だったのではないのか? そうか、コピーロボットは最初から「私」の中にいて、必要とされるときを待っていたのです。きっと。

 

新しいことを始めるには、たいてい今いる平穏なところから出ていかなくてはいけなくなります。しかし、その代わりに自分のキャパシティーを広げることができます。私はこわいこわいと言いながらも新しいことを始める覚悟をし、新たな場所へ飛び出したのです。その結果、新しいキャパシティー、つまりこのコピーロボットを起動させることができたのです。平穏な場所は楽です。けれども、新しいことには出会えません。今回私は新しいことを始めたことで「新しい自分」に出会いました。大人になって新しい自分に出会うなんて思ってもみませんでした。私は私であって、新しい自分なんてどこにもいないと思っていましたから。けれども、出会ったのです。最初は面食らったけれど、だんだんと新しい自分に魅かれていきます。いつもの「私」のようにおどおどすることなく、堂々と人前に立って、そんなに緊張するでもなく笑顔なんかも振りまいている新しい自分。我ながら素敵だなぁと思うほどです。そうなると、まだ私の中に眠る別のコピーロボットを起動させてみたい衝動がわきあがってきました! ストップスイッチを探していたはずなのに、いつの間にか別の起動スイッチを探そうとしています。もしかすると、これはコピーロボットの陰謀なのかもしれません。でも、もう私はこの衝動に抗えません。だってあのスリルを、ライブ感を知ってしまったから!

ああ、なんということでしょう! コピーロボットが不敵な笑みを浮かべてこちらを見ています。平穏な日々を求めていた私が、コピーロボットに乗っ取られてしまう日はもうすぐです。