私、ここまでなら脱げます

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歳をとってきたせいなのか、かなり脱いでも平気になってきた。

お金を稼げるような、そんな人様にお見せできるような価値のあるものを持っているわけでもないし、有名人でもない。だから等身大の自分というものがわかってきたのかもしれない。

 

だいたい若い頃は完全に勘違いしていた。

どんどん脱いで、たいしたことがないことがバレたら、もう誰も私になんて目もくれないだろう。であれば、じらして、ちらっとだけ見せて人の気を引いておかなくては……と思っていたが、そんな面倒くさい人にずっと付き合ってくれる人なんてそうそういないのだ。今となっては、どうして脱ぐことがあんなにも恥ずかしいと思っていたのか、謎に思うほどだ。あの頃、さっさと脱いでしまえばよかったのに。

 

脱ぎ始めた頃はもう本当に清水の舞台から飛び降りるような気持ちだった。

こんなに脱いじゃって本当に大丈夫なのか? そんなあからさまな姿なんて誰も見たくないんじゃないか? そんなもの、公衆にさらすな! などと言われるのではないか? と恐れていた。だが、やってみると意外にも好意的に受け止められた。それどころか

 

「私も脱いでみたい」

 

という人まで現れた。

 

なんだ、実はみんな脱いでみたいんじゃないか!

 

脱ぎたいなら脱いでみてしまえばいいのだ。

やっぱり違う……と思うのなら、また着ればいいだけの話なのだから。

躊躇しているのは自意識があるからだと思う。他人からどう思われるだろうか? とか嫌われたくないとか思ってしまうから。けれど、その一線は思っているほど高くはないのだ。高いのは「心の壁」の方なのだ。

 

私は脱いでいく過程で、何度も号泣した。

しまった! こんな公衆の面前で脱いでしまった……と後悔したわけではもちろんない。むしろ、そうやって脱いで行けている自分がとても愛おしくなってきてしまったからだった。

 

私はきっと、本当はもっと前から脱いでしまいたいと思っていたんだ。

脱げば脱ぐほどそのことを確信した。

脱いで、泣いて、脱いで、泣いて……を繰り返していく中で、どんどん身体が軽くなってゆくのを感じた。脱いだら必ず泣くわけではないのだが、しかし、脱いで、泣いてという行為は確実に私の中の何かを浄化してゆく。

 

私がこうして文章を書くとき、なぜかもう一人の自分が私の首を絞めてくる。

 

「脱げ! 脱いでしまえ!」

 

と言いながら。私は

 

「く、苦しい……」

 

と言いながら、脱いで行かざるを得ない。

正直言えば、脱いだふりでもいいかなと思う時もあるのだけれど、それはすぐにバレてしまうのだ。だって、もう一人も自分だから。

 

お題に対して、いや、自分に対して嫌というほど向き合わなくては文章が書けない。これはもう私のスタイルだとしか言えないけれど、そういう風にしか今のところ書けていない。恥ずかしいけれど、もう心を決めて脱ぎます! 脱いでみたら私はこんな感じなんです。あとはお好きにどうぞ。といった具合なのだ。

 

けれど、本当に恥ずかしいのは中途半端な脱ぎ方をしたときなのかもしれない。全部、もう何も隠すことがないくらいに脱いでしまうと、あとはもう爽快感しか残らないのだ。達成感と言ってもいいかもしれない。隠しようのない「私」をさらけ出してしまったら、恥ずかしさなどない。だって、これが「私」だから。格好をつけることもできない。虚勢を張ってみることも、着飾ることもできないのだ。ここまで来ると開き直るしかなくなる。これが私なんです。ご期待に添えないかもしれません。でも、今の私にはもうこれ以上どうしようもできないのです。

 

しかし、こんなに脱ぐものがあって、これからもあるであろうことを考えると、そもそも私は「着過ぎ」なのだろう。言い訳という便利なものを着てみたり、怒りという武器を身に着けてみたり。ああ、だから向き合って少しずつ減らしていったから身体が軽くなっていったのだ。今までは必要だったこれらのモノ。今まで役立ってくれてありがとう。でも、これからはもう必要ないかも。

 

今まではどうやって着飾るのか、どうやって沢山のモノを手に入れるのか、そればかりを考えてきた。けれども、ここからはどんどん脱いでシンプルにしたいと思う。

 

これからもっと脱いで行くとどんな「私」が現れてくるのだろうか。

時にはヘドロのような自分を見るかもしれない。悪臭を放っていて、すぐに蓋をしたくなるかもしれない。けれど、それも自分なのだ。いつの間にか放置して腐らせてしまったのは私。まるで冷蔵庫に入れっぱなしにして放置されたままの野菜のように。だれも代わりに掃除などしてくれないのだ。いつか自分で見つけて後始末をするまでは。

 

私は今現在脱げるであろうところまで限りなく脱いでいる……つもりだ。

まぁ、本当はまだまだ着ぶくれしているのだろうけれど。